“すでに起こった未来”と“賢者は歴史に学ぶ”

事業部長ブログ

みなさん、こんにちは。

KCCSでSigfoxを担当しております、LPWAソリューション事業部長の松木です。

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世の中は変化します。

人は必ず死ぬ、というのと同じ絶対の真理です。

変化は徐々に姿をあらわします。

変化の頭だしを的確にとらえれば、時代に先回りし、先行者利益を得ることができます。

これを経営学者のピーター・ドラッカーは、

“すでに起こった未来”

という言葉で表現しています。

“すでに起こった未来”は、イノベーションの種となります。

しかし、“すでに起こった未来”が何であるかについての深い洞察なしに、イノベーティブな事業を成り立たせることはできないようです。

今回は、過去の事例からこのことを学んだという話です。

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松井証券という証券会社があります。

先日、知人が以下の本を勧めてくれました。

「おやんなさいよ でも つまんないよ」
松井証券 代表取締役社長 松井 道夫 著

初版が2001年12月20日ですから20年近く前の本です。

私自身は株に詳しくはないのですが、松井証券が株のインターネット取引で有名になった会社である、という知識はありました。

松井 道夫という人は、インターネットの活用において大変に先見の明があった人、IoT、LPWA、Sigfoxの展開でも参考になるかも、程度の認識で読み始めました。

しかし、事実は違っていたようです。

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土地バブルが弾けた後の1991年頃の話です。

松井証券は、電話を使った通信取引にシフトしようとしていました。

インターネットの商用サービスが始まる1994年以前の話です。

当時の証券会社の営業は対面営業が常識でした。

加えて、松井証券は、インセンティブで稼ぐ歩合外務員を雇うという、事業的には成長発展が困難な事業形態をとっていました。

バブルが弾けると歩合外務員から手数料が入ってこなくなり、社員営業を増やすにも資金がありません。

義父が松井証券の社長だった松井 道夫氏は、このとき、家業を継ぐ決心をし、日本郵船から松井証券に転職します。

そして、常務取締役営業本部長となって旧態依然の事業形態をリストラしようとします。

その切り札として、通信取引を始めます。

しかし、顧客は少しずつ集まり始めたものの、収入があまり増えません。

一方、全国紙へ掲載する広告費がかさみ、ついにはそのコストに耐えかねて、松井社長は、「通信取引を止めようか」とまで言います。

その時、現場で顧客対応していた女子社員の一人がこういったそうです。(以下、==は上記書籍からの引用)

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「でも常務、何となく、匂うんです。結構問い合わせもありますから、もう少しやらせて下さい。」

という。それならあと半年だけ様子を見て、それでも効果が上がらなければ、もう通信取引は止めようとさえ考えていたのだ。

91年に始めた通信取引は、93年頃から大きく伸び始めた。

現在のインターネット取引はその延長線上にあっただけの話である。

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さて、最後の一文が私にとっては、???でした。

なぜなら、株取引にインターネットを採用したことこそ、松井社長の先見の明、“すでに起こった未来”を捉えたと私は思い込んでいたからです。

違うのです。

松井社長が見た”すでに起こった未来”とは、インターネットではなかったのです。

松井社長がまったく異なる業界から松井証券に転職してきて最初に感じた違和感は、なぜ株取引を行うだけなのに証券会社の営業社員のコストを顧客が手数料として負担しなければならないのか、でした。

松井社長は、転職前は船舶業界にいました。

船舶業界は元々、運輸省にガチガチに守られた護送船団方式の規制産業だったそうですが、オイルショックを転機に完全に自由化されていたそうです。

そこで、松井社長が学んだのが、「顧客中心主義」でした。

「顧客中心主義」とは、コストは顧客が決める、ということです。

「顧客中心主義」に照らすと、当時の証券会社の高額の株式取引手数料は説明がつきませんでした。

松井社長がその時に見た“すでに起こった未来”とは、米国ですでに始まっていた証券取引の自由化と日本の株式手数料の理不尽さ、価格破壊の予感でした。

“すでに起こった未来”を見越した松井社長は、営業セールスの停止を断行します。

しかし、業界と社内から筆舌に尽くしがたいほどの猛烈な反対と抵抗に遭い、次々に営業の幹部社員が辞めていきます。

それでも、松井社長は、「コストは顧客が決める」「顧客は営業社員のセールスコストを支払わない」という「顧客中心主義」は変えませんでした。 

先ほどの引用部分の後に以下の文章が続きます。

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通信取引は営業を否定することとイコールである。営業を否定しなければ通信取引に特化することはできない。歩合外務員や社員セールスマンを大量に抱えている以上、どこの証券会社が営業を否定できるだろうか。松井証券はそれを整理する覚悟があったからこそ通信取引に特化できたのである。

(中略)

いくらネット取引を云々しても、営業を否定しなければどうしようもない。歩合外務員を雇い、営業セールスを雇いながら通信取引を手掛けるのは、いわば水と油を混ぜる試みに等しく、融合するわけがない。この点が松井証券との根本的な違いである。またそこが一番のポイントだと思う。インターネットを使うか否かは単に「ツール」の問題であり、たまたま電話がインターネットに置き換わっただけの話である。

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いかがでしょうか。

松井社長が見ていた“すでに起こった未来”とは、通信革命でもインターネット革命でもありません。

「顧客中心主義」とグローバル視点で、大きな世の中の流れを見ていたということです。

そして、信念であった通信取引をあきらめかけたギリギリのところで未来が開けていったわけです。

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インターネットという新技術を松井証券がどこよりも先んじて使ったから、松井証券が特別の存在になったというのは大きな誤解でした。

松井証券の「顧客中心主義」という経営戦略の具体的手段として、インターネットが適用されたことで、驚異的に業績が伸びたということです。

唐突に我に返りますが、IoTもLPWAもSigfoxも同様ではないかと考えております。

どんな事業であれ、その事業が顧客に提供する付加価値が最大化されるという前提のもと、適切な手段としてSigfoxが使われてこそ、その威力を発揮することができると思います。

そういう出会いを求めて、私たちKCCSも経営リテラシーをあげていきたいと思います。

以上、30年前の出来事ですが、新技術の適用という観点で大きな気づきがあると思います。

最後にひとこと。

鉄血宰相と言われたビスマルクの言葉として以下があります。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

もしよろしければ、みなさまも参考にして下さい。